井村雅代さんの講演会を聞いて

先日ある会合で、シンクロナイズドスイミングの日本代表コーチの井村雅代さんの講演を聞く機会に恵まれた。正直言って、リオオリンピックで日本が久しぶりにメダルを獲得した時は、この人が戻ってきたから当然と思っていた。しかし、短期間でそこまでになる為に彼女は想像を超える厳しい指導をし、同時にメダル獲得につながる色々な仕掛けをしている事が分かって、大変有意義だった。

井村さんが日本代表のコーチに戻って来た時の日本の世界ランクは6位で、オリンピックに出場できるチームが8つだった。メダル常連国の日本がそこまで落ちてはいたが、自分が指導すれば何とかなると最初は思ったそうだ。しかし、現実は全く違っていた。先ず選手たちは、「みんな一緒」の練習をしていた。プールは技術を競い合う場所なのに、それを忘れている。「絆」と言いながら、実は誰かがやってくれるだろうという意識が蔓延していた。そこで、個人の力があってこその「絆」でありチームであることを伝え、問題が有れば徹底的に追い詰め、「自分を褒めたい」などという甘えを排除した。頑張りは他人が評価するものだという事を教えたそうだ。そして、成長の為に大きな目標をかかげ、日々の努力を重んじたそうだ。大きな目標でも1mmずつの頑張りが必要である事を説いた。

そして、井村さんは外見的に見劣りする日本選手を本番で輝かせるために、技術以外の面にも大いにこだわった。強豪国の選手はほとんどが170cm以上の身長があり、手足が長く立っているだけで美しい。一方日本選手は177cmが一人いるが、160cmそこそこが二人いる。そこで、曲に徹底的にこだわった。シンクロは普通早いテンポの曲が多いが、それでは手足の美しさが際立つため、スローテンポの曲を採用し、最後の1分は心臓の鼓動を感じるテンポで盛り上げた。そして、掛け声は選手たちの声を入れ録音した。この勢いに乗って、審査員が思わず高評価をするよう仕組んだのだそうだ。また、水着も日本の技術を集結し、「防透け(ぼうすけ)」という白でも透けない美しい水着を採用した。

ご存知の通り、日本チームは銅メダルを獲得した。井村さんの好きな言葉は「練習は嘘をつかない」「練習は試合のように試合は練習のように」「自分の可能性を信じよ」「限界は自分が決めている」との事。選手達は練習のように試合をした。過呼吸にまで追い込んで限界までやらせたことの責任は、メダルを取らせることにより果たしたと思うと語った。最後に「3流の人は道に流され、2流の人は道を選び、1流の人は道を作る。」
という言葉で締めくくった。彼女の生き様が詰まった凄い講演だった。

 

吉澤比佐志

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