野村克也氏逝く

プロ野球で選手としても監督としても活躍した野村克也氏が亡くなった。我々が子供の頃は巨人の全盛期で、とりわけ王・長嶋が圧倒的な人気だった。その中で、実績もありながら、野村が子供たちのヒーローになることは無かったように思う。王・長嶋を「ひまわり」にそして自らを「月見草」と例えるように選手としては華やかさが無かったからだろうか。実際我々の同年代でも、王・長嶋ファンが圧倒的に多いが、野村は人気が無い。ぼやくスタイルを「暗い」と受け止められている。

しかし、私は野村氏の野球に真摯に向かい合う姿勢に惹かれる。野球に勝つためのチーム作り、選手育成に心血を注ぎこむ姿勢、そしてデータを徹底的に活用する戦略は経営者としても学ぶことが多い。

野球を通して得た真理を「野村語録」として表現したものの中に「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」というのがある。これは、かつての剣豪の言葉らしいのだが、日々の仕事の中でこれを実感する事がある。

例えば社内の不良や事故にもこれが当てはまる。毎月の品質会議を行う中で、突然不良が連続的になくなる事が有る。そんな時、あたかも不良が根絶できたような感覚に陥る。特別な努力や対応策も講じていないにもかかわらず、である。それは正に「不思議な勝ち」であり、「不思議の無い負け」の洗礼を程なく受ける事になる。会社の業績に於いても、それが順調に推移すると、その背景にある先人たちの努力や行動を忘れ、自己の功績にすり替え、それが永遠に続くという錯覚をして、「不思議の無い負け」を喫する事になる。

経営と言うのは、他社との勝ち負けを競うためのものではないが、自分たちが掲げた目標が達成できたか否かが「勝ち負け」の判断だとすれば、「不思議の無い勝ち」を得るためには、過去の成功体験に頼ることなく、現状を疑い、改善や革新を怠らず、勝つための方法論をとことん追求して極め、絶対に負けない実力を磨いていかなければならない。それは終わりのない戦いだ。

野村氏は選手時代捕手として、全ての試合で「完全試合」を目指したが、それが達成されたことは無かったそうだ。それでも野球が大好きでいつも高みを目指す姿勢が晩年多くの人たちの心に届いたのだろう。天国でサッチーに会えただろうか。ご冥福をお祈りします。

 

吉澤比佐志

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