まごころとは

毎年この季節になるといつも大きな鉢植えの蘭が届く。父と仕事でお付き合いのあったKさんからである。
父が亡くなってもう8年が経つが、毎年、それもわざわざ家まで持参される。大ぶりの素晴らしい蘭なのだが、育てる術を知らない私は、枯らしてしまうのではないかと不安になる。
そこで数年前、「お気持ちだけで結構ですので、もう気を使わないでください。」とKさんに申し上げると、
「私はあなたのお父さんのおかげで今日があるのです。それにこの花はあなたに差し上げているのではなく、お父さんに差し上げています。どうか仏壇の横に飾ってあげて下さい」と言われたので、私は感謝を以って承知した。
それが今も続いている。花は仏壇の横の床の間にしばらくの間飾り、その後は家の庭や会社に置いている。
決して丹精に育てているわけではないが、最近毎年花をつけるようになった。
お世話になった人でも、亡くなれば縁は無くなる。しかし、Kさんにとって縁は無くなっても、恩は一生なのだろう。頭の下がる思いだ。そして、その父に対する感謝がうわべだけでない証拠は、毎年父の命日に墓前に手向けてある花である。Kさんの顔以外に脳裏に浮かぶ人はいない。父が生きていた頃は親切にしてくれていた人でも、最近会うとよそよそしいという事はしばしばある。その中で、幸いな事に県トラとKさんの会社の付き合いは今も続いている。私も感謝の気持ちを忘れずにこれからも一緒に仕事をさせて頂きたいと思う。

 

吉澤 比佐志

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